フェミニズムによる「道徳的検閲」と批判

性的なコンテンツに対するクレカ会社等による金融検閲・決済遮断へのフェミニズム内の反応
柴田英里 2026.10.04
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前回のニュースレターでは、pixiv FANBOXなどでの表現規制や作品公開停止の背景の一つに、コレクティブ・シャウトなどの国際的アクティビスト団体がクレジットカード会社等の金融インフラに圧力をかけて行う法的手続を経ない「検閲」があることや、性表現を弾圧する「宗教右派の禁欲道徳」と、ポルノを暴力とみなす「ラディカルフェミニズム」の合流の問題について論じていきました。

今回は、コレクティブ・シャウトがどのような団体であるかをもう少し詳しく紹介しつつ、性的なコンテンツに対する「道徳的検閲」や、ビザ/マスターカード等による金融検閲・決済遮断に対するフェミニズム内での反応をまとめていきます。

コレクティブ・シャウト

コレクティブ・シャウトは、オーストラリアを拠点とする「女性の物象化および少女の過度な性商品化に対する草の根運動」を標榜する草の根ロビー/アクティビズム団体です。

主な取り組み対象は、「メディア・広告の監視」「ポルノグラフィおよびアダルトコンテンツ規制」「性暴力・性的搾取の反対」など。中心人物であり創設者のメリンダ・タンカード・ライストは、オーストラリアの著述家で、過去にオーストラリアの上院議員の政治顧問を務めた経歴を持つ人物です。反中絶(プロライフ)・反ポルノ・代理母反対などの言論で知られています。

政治性に関しては、自らは超党派や「草の根の女性権利団体」を掲げていますが、政策提言やロビー活動においては保守系政治家やキリスト教右派と利益が合致することが多く、組織としては特定の宗教を前面に掲げず、世俗的な「人権・ジェンダー課題」としてキャンペーンを展開していますが、表現規制運動において保守層と連携してきた経緯があります。

フェミニズムの潮流の中では、主に「反ポルノ・フェミニズム」あるいは「SWERF(性労働者排除的ラディカル・フェミニズム)」や「TERF的傾向を持つセックス・ネガティブフェミニズム」などに位置づけられ、1970-80年代のフェミニズム内部で性表現や性労働をめぐり起きた対立「フェミニスト・セックスウォーズ※」におけるキャサリン・マッキノンやアンドレア・ドゥウォーキンらの系譜(反ポルノ・ラディカル・フェミニズム)であることから、ラディカル・フェミニズムとキリスト教保守派の道徳的価値観が合流した、反ポルノ・表現規制型のロビー団体であるといえます。

2009年の団体設立以降、2010年代はオーストラリア国内の大手スーパーや商業施設をターゲットにし、署名運動を通じて「店頭からの撤去・販売停止」を求める「小売店・広告主への直接圧力」活動が中心で、2020年代になり、プラットフォーム事業者(Steam等)に直接交渉するだけでなく、クレカ決済会社などの「金融インフラ」を叩く「決済機関を通じた金融検閲」の戦術にシフトし反ポルノ・表現規制的なキャンペーンを継続的に展開しています。

一方で、表現の自由を重視するリベラル派やLGBTコミュニティ、表現者・クリエイター層からは、「反ポルノや性表現批判の動機として、表面上はフェミニズムの言説を用いながらも、実際にはキリスト教的・保守道徳的な価値観(性倫理や禁欲観)が背後にあるのではないか」と批判されています。

※フェミニスト・セックスウォーズ:

1980年代アメリカの「フェミニスト・セックスウォーズ」は、ポルノ等の「表現物」とセクハラ等の「行動」の規制を巡る論争。マッキノンやドウォーキンら反ポルノ派は、女性を欲望や主体性を欠く従属的存在と捉え、ポルノを女性差別や暴力の根源とする扇情的な主張を展開した。彼らはポルノを公民権侵害・人権侵害と位置づけ直し、地方自治体での反ポルノ条例制定を目指した。

対する「セックス・ポジティブ」派は、女性の快楽と主体性を重視し、反ポルノ派の白人・異性愛中心主義を批判し、法規制ではなく出演者の労働条件改善や女性向けポルノ制作等で女性を支援すべきだと訴えた。しかし、法実務に長けセクハラ理論で司法領域での「成果」を得たマッキノンらに比べ、法律枠組みへの影響力は限定的だった。この論争を経て第3波以降、性的表現の合否はフェミニズム内の多様な立場の一つとして定着した。

「道徳検閲/金融検閲」を批判するフェミニスト

フェミニズム団体がクレカ会社に圧力をかけ、「道徳的検閲」や「金融検閲・決済遮断」を行うことに対して、アメリカでは、オンリーファンズや同人プラットフォームで活動する女性クリエイターや性労働者の「労働権・経済的生存権」を守るために、セックスワーク派やセックス・ポジティブ派のフェミニストたちが「金融検閲反対」の声をあげています。

アメリカのリバタリアン・フェミニストでジャーナリストのエリザベス・ノーラン・ブラウンは、クレジットカード会社や決済代行企業が民間の「道徳的警察」として機能することを批判し、こうした金融規制は、大手プラットフォームに「性的・過激とみなされそうなコンテンツを過剰に削除・検閲するモチベーション(萎縮効果)」を与えるだけであり、結果として合法で合意に基づく芸術・表現・言論まで巻き添えにして排斥していると指摘しています。

また、オンラインポルノ業界の経済的・状況的な危険性の背景には、過激な性描写に反対する保守派グループの存在があること。彼らは現在では不確かとされている未成年搾取の統計を用い、合意に基づくポルノを性搾取と結びつけて仲介業者や政財界へ圧力をかけていること。表面上は虐待根絶を掲げるが、真の目的は法的手段や政治的脅迫を駆使した成人向けコンテンツ全体の排除であり、この活動は当事者女性の生活悪化やネット上の表現の自由の抑圧を招く恐れがあることなどを批判しました。

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続きは、1640文字あります。
  • 「あいまいな道徳基準」
  • 日本では批判するフェミニストがいない現状

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