ウォーク広告の終焉

ユーモアなき世界の応援と対立
柴田英里 2026.11.01
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今回は、フェミニズム、LGBTの権利などのアイデンティティ・ポリティクスや社会的テーマを取り入れた広告(「ソーシャル・アクティビズム広告」や「ウォーク広告」「フェムバタイジング」などと呼ばれる)の流行と衰退に関してまとめていきたいと思います。

まず、こうした社会派広告の売上貢献度や費用対効果については、近年のマーケティング・経営学分野の実証研究において、「単に社会的テーマを掲げれば売上が上がるわけでもなく、逆に一律で売上に悪影響を与えるわけでもない」という見解が示されています。

近年のウォーク広告と消費者の関係

2020年から2021年にかけて、コロナ禍や、Black Lives Matter(BLM)運動の世界的拡大、#MeToo の継続的な高まりを受け、ブランドが政治的・社会的立場を表明することが「世界標準の要請」とみなされました。

しかし、この傾向は2022年には飽和し、「(雇用やサプライチェーンなど)実質的な企業行動が伴っていない社会派広告はブランド信頼度を下げる」という検証結果が発表され始め、無計画な社会派訴求を抑える企業が現れ始めました。

そして2023年、アメリカの大手ビールブランド「バドライト」や、大手ディスカウントストア「ターゲット」でLGBT関連のプロモーションが大炎上し、深刻な不買運動へと発展します。

2000年代以降、20年以上にわたり「全米で最も売れているビール」のトップを維持していたバドライトは、元々「伝統的な男性文化」「フットボール観戦」「大衆的なビール」の象徴でした。

しかし2023年4月、SNSで数百万人のフォロワーを持つトランスジェンダーの女性インフルエンサー、ディラン・マルベイニー氏と提携し、彼女の顔写真が印刷された特製ノベルティ缶を贈呈するプロモーション動画をTikTokやInstagramで公開したところ、主要顧客である保守的な価値観を持つ労働者層や白人男性から激しい反発を受け、不買運動へと発展しました。

さらに炎上の最中、マーケティング責任者のアリッサ・ハイナーシャイド氏が「バドライトはチャラくて時代遅れのブランドイメージを脱却し、若年層やインクルージョンを取り入れる必要がある」といった趣旨の発言をしていた過去のインタビューが発掘されたことで、「既存の顧客をバカにしている」と炎上は決定的なものとなりました。

親会社のABインベブは保守層への配慮を見せる曖昧な声明を出したものの、保守層の怒りを鎮められないばかりか、リベラル層からも「圧力に屈した」と支持を失うことになります。結果として、翌5月にはメキシコ系ビールの「モデロ・エスペシャル」に全米首位の座を奪われる事態となりました。

同年(2023年)6月、米小売大手ターゲットが毎年6月のプライド月間に向けて展開したLGBT関連商品——特に、未手術のトランスジェンダー女性に配慮した「タックフレンドリー水着」(タック:生殖器を後方へ収納・固定する技術)などを店舗前面で大々的に展開したところ、保守派インフルエンサーや不買運動派が店頭で商品を投げ捨てたり、従業員を脅迫したりする事件が相次ぎました。

ターゲットが従業員の安全を理由に商品の撤去や店内奥への移動を行うと、今度はLGBT支援団体から「圧力に屈してコミュニティを見捨てた」と激しく非難され、同四半期の売上は数年ぶりの減収(売上・客数ともに減少)を記録することになりました。

2024年以降、過激な政治主張や社会的スローガンを叫ぶスタイルの広告は大きく減少し、「メッセージ」ではなくプロダクトの配慮や多様なモデルの自然な起用、環境配慮といった「具体的な行動」を淡々と示す方向にシフトしました。

ウォーク広告の国際評価の変遷

世界最大級のクリエイティブの祭典「カンヌライオンズ」の傾向も同様です。

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続きは、1584文字あります。
  • 口に出すだけの社会正義より、人の役に立つこと

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