決済インフラによる「検閲」と性的経済の構造

pixiv FANBOX一斉公開停止から読み解くフェミニズムと性欲非対称性の進化心理学
柴田英里 2026.09.27
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2026年9月25日、「pixiv FANBOX」において、運営側から「決済事業者からの指摘を受け」要修正の可能性があると判断された作品に対して、一斉かつ広範囲な公開停止処分が下されました。

対象となったクリエイターの元には事前通告や個別の修正猶予が与えられないまま非公開化の措置が通知され、作品の販売・公開が停止されました。

この現象は、単一プラットフォームの規約改定や管理不行き届きによって生じたものではなく、Visa、Mastercard、American Expressといった欧米系国際クレジットカードブランドが、日本国内のデジタルコンテンツ市場に対して行使する金融インフラ上の圧力にあります。

法的な手続きや公的な規制議論を経ることなく、民間企業である決済事業者がプラットフォームへの資金流出を停止させるという脅迫的提示を行うことで、間接的にコンテンツの排除を強制するこの構造は、数年前からFANZA、DLsite、ニコニコ、pixiv本体などでも相次いで起こってきました。

背後にあるのは、欧米のアクティビスト団体の存在です。

国際的ロビー団体の活動

今回の決済停止問題の背後で国際的に主要な役割を果たしているのが、米国の「NCOSE(全国性搾取防止センター)」や、オーストラリアの「コレクティブ・シャウト」に代表される反ポルノ・反性搾取アクティビスト組織です。

NCOSEは毎年「Dirty Dozen(汚名リスト)」と称する企業・団体のブラックリストを発表し、成人向けプラットフォームのみならず、それらに決済機能を提供するVisaやMastercard、PayPal、さらには銀行やクラウドサービス企業を名指しで批判してきました。

一方のコレクティブ・シャウトは、広告やポルノグラフィにおける「女性の性的対象化や少女の性的化」の打倒を掲げ、オーストラリア国内のみならず国際的に大手企業への不買運動や抗議キャンペーンを展開しています。2025年半ばにはSteamなどの世界的ゲームプラットフォームに対し、性的表現を含むゲーム作品の一括排除を迫り、成功を収めたと主張しています。

これらの団体が採用する手法の最大の問題点は、「法的手続きや民主主義的プロセスを経ない民間金融インフラの兵糧攻め」という点にあります。

彼女たちは、通常の法治国家であれば重視する民主的プロセスを経た合意形成プロセスを跳び越え、決済会社の「レピュテーションリスク(評判リスク)」や「巨大損害賠償訴訟の恐怖」を揺さぶります。

2020年の『ニューヨーク・タイムズ』によるPornhub批判記事や、それに続くVisaに対する性的搾取幇助の共同被告訴訟などを受け、現状、決済会社は「グレーゾーンは一切排除する」という極端なリスク回避行動へと走っています。その結果、表現の文脈や「実在の人間」と「創作物」の区別すら無視され、フィクションまで画一的な検閲によって一括排除される巻き添え被害を被っているのです。

宗教右派の「道徳・禁欲」とラディカルフェミニズムの「被害者救済」の合流

これら反性表現運動の構造を理解する上で重要なのが、本来異なる主張であるはずの「宗教的・右派保守派の禁欲道徳」と「ラディカルフェミニズムの被害者救済論」の同質化および合流です。

歴史的に見れば、宗教右派(米国の福音派など)は「性は神聖な結婚と生殖のためのものであり、過度な性的露出や娯楽としての性は道徳的退廃である」という倫理観に基づき性表現を弾圧してきました。

一方、1970年代以降のラディカルフェミニズム(アンドレア・ドウォーキンやキャサリン・マッキノンら)は、「ポルノグラフィは女性蔑視の思想基盤であり、男性優位の社会構造における暴力の理論的根拠である」と主張し、「ポルノは理論であり、レイプは実践である」という有名なスローガンを生み出しました。

生殖規範の遵守を求める「保守」と、構造的抑圧からの解放を求める「ラディカル」、目的が異なるはずの双方において、ポルノコンテンツに対して以下の共通認識が共有されています。

  • 表現と実害の同一視:フィクションの表現を現実の性犯罪や人身売買と直接の因果関係があるものとみなす。

  • 「同意」の全面的否定:性的コンテンツの制作や提供に関わる女性(あるいはモチーフとされる表現)に「真の同意」は存在し得ず、すべて構造的な搾取・洗脳の結果であるとみなす。

  • 二元論的絶対正義:表現の自由やクリエイターの権利を主張する側を「加害者側の擁護者」として悪魔化する。

これらの道徳的自己正当化こそが、民間企業の決済手段を遮断し、他国の文化市場の経済基盤を脅かすという暴力性の発露の倫理的免罪符となっているのです。

「性的経済」とクレジットカード規制の戦略性

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