売春は「性被害」か「労働」か:性をめぐるフェミニズム内の対立

売春防止法の見直しに向けて
柴田英里 2026.10.11
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現在、売春防止法の見直しが進められており、2026年秋の臨時国会への改正法案提出が検討されています。

2026年9月に取りまとめられた法務省の有識者検討会報告書では、買う側の勧誘行為への規制新設が強く推奨される一方、売る側の勧誘処罰は維持すべきとの意見が大勢を占めました。売買春そのものの処罰化や、性交類似行為への定義拡大には慎重論が強い傾向になっています。これは、以前よりは「買う側(主に男性)を処罰し、売る側(主に女性)は非犯罪化して支援する」という「北欧モデル※」に近づいているが、移行するとまではいえない状態だといえます。

北欧モデル※:
性売買に対する法的アプローチの一つで、「性売買は女性に対する構造的な暴力・搾取であり、ジェンダー不平等の表れである」という廃止主義フェミニズムの流れを組むものとして位置づけられる。

1999年にスウェーデンで世界で初めて本格導入され、その後ノルウェー、アイスランド、フランス、カナダ、アイルランド、イスラエルなど複数の国・地域で採用または部分的に採用されている。

1956年制定の現行法(売春防止法)は、売買春を禁止しながら、罰則を主に売る側の勧誘・客待ちに設け、買う側には対応する罰則がないものでしたが、歌舞伎町などでの路上売春の可視化や関連事件を背景に、法改正の議論が進んでいます。

そうした中で、売春防止法の制定に深く関与し、法の成立後も売る側だけを罰する「片罰制」を批判し、買う側も罰する改正を求める運動を続けてきた矯風会や、Colabo、ぱっぷすなどの「困難女性支援法」に関わった女性団体は、買う側への処罰強化と、売る側の非犯罪化、脱性売買支援の制度化を求めています。

Colaboの仁藤夢乃氏は、売る側を処罰しながら支援する仕組みでは、被害を訴えにくく支援にもつながりにくいと批判。ぱっぷすも、性的搾取の需要側への規制や、売る側の非犯罪化を提言しています。これに対し、SWASHなどのセックスワーカー権利派は、処罰強化による地下化や困窮の深刻化を懸念しています。

今回は、臨時国会での審議が控えているからこそ、あらためて、売春は「性被害」か「労働」かという問題をめぐるフェミニズム内の対立について解説したいと思います。

【性売買廃止主義の背景にある「性暴力の連続体」】

売春防止法における「売春」は、あくまで現代の刑事・規制法上の概念ですが、「北欧モデル」の導入を推奨する女性団体(矯風会・Colabo・ぱっぷすなど)は、「売春」を、活動の歴史や構造の面で「戦時性暴力や慰安婦問題と強く連続する部分が多いもの」として捉えています。

〈歴史的・活動上の連続性〉

矯風会は明治期からの公娼廃止運動(廃娼運動)を担い、1956年の売春防止法制定に尽力しました。1990年代以降は慰安婦問題にも積極的に関わり、女性国際戦犯法廷の支援、韓国挺身隊問題対策協議会(現・正義記憶連帯)との連携、高橋喜久江氏による資料提供などを通じて、問題化を推進しました。

ぱっぷすは、矯風会と連携した集会を開催するなど、ネットワーク上でつながっています。北原みのり氏(ぱっぷす元理事)も、矯風会の活動を「元祖#MeToo」として再評価し、性産業を性搾取・性暴力の歴史や文化の延長として位置づけています。

〈構造的・イデオロギー的な連続性〉

矯風会は近年の声明で、日本軍「慰安婦」問題を含む戦時下の性暴力が、「女性を性的対象として支配する現在の性暴力や性搾取と共通する構造を持つ」と明確に指摘しています。

これは、売春を「対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交すること」(売春防止法第2条)と定義しつつ、それを本質的に性的搾取・性暴力とみなす立場です。ぱっぷすは、ポルノ被害・性的搾取の相談支援を中心に、売春防止法の見直しや買う側への処罰を求め、性産業全体を人権侵害・性暴力の連鎖として捉えています。

Colaboは若年女性の性搾取に関する支援を行い、性売買を「性搾取」と位置づけ、買春処罰や支援強化を訴えています。元慰安婦の証言に共感し「私たちは買われた」展覧会を開催した事例もあり、歴史的経験と現代の「買われる」経験との連続性を意識しています。

北欧モデル(買春者を処罰し、売る側を非犯罪化して支援する)を支持するこれらの団体の解釈では、戦時性暴力と現代の「売春」を構造的に連続するものとして切り分けず、むしろつなげて考える傾向が強いのです。

上野千鶴子は、性暴力は戦争に伴う物理的・構造的暴力の一部をなしており、強姦から売買春、恋愛まで、さらには妊娠、中絶、出産から結婚までの多様性を含んでいること。性暴力を強姦から売買春、恋愛、結婚までの連続線上に配置するのは、事実この間に連続性があって、境界を引くことが難しいからだとするリズ・ケリーの性暴力の連続性に関する研究を参照し、「性暴力連続体」と名付けましたが、戦争をしておらず、第二次世界大戦の記憶を持つ人すら少ない現在の日本の恋愛や結婚、セックスワーク、性被害を、戦時性暴力まで拡張した構造に当てはめることに妥当性があるかは、フェミニズム内でも見解が分かれます。

【売春を女性の労働の一つとして捉えるフェミニズム】

北欧モデルは、ラディカル・フェミニズム(廃止主義/アボリショニスト)の影響を強く受けた政策であり、主にセックスワーカー権利派やリベラル・フェミニズム、インターセクショナル・フェミニズムの側から批判が出ています。

「セックスワーク・イズ・ワーク」の立場(例:SWASHなどの当事者支援団体)は、合意に基づく性労働と強制・人身取引を区別し、廃絶主義をセックスワーカーへのスティグマ化や主体性の否定として批判します。困難女性支援法の施行後も、「性産業への敵視が続く」との懸念が表明されています。

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  • 【セックスワーカー一人ひとり、状況やニーズは異なる】

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