しぐれうい✕メゾピアノコラボ炎上にみるブランドイメージとアイデンティティ癒着の問題
今回は、しぐれうい✕メゾピアノコラボの炎上と中止に関して、消費社会におけるブランドイメージとアイデンティティの癒着の観点から見ていこうと思います。
しぐれうい✕メゾピアノコラボの炎上と中止
9月15日、株式会社colyが「しぐれうい×mezzo piano」を発表し、しぐれういの描き下ろしイラストを使ったグッズ販売と、10月にポップアップショップを開催することが告知されました。
発表直後からXなどで「実在の子供を顧客にするブランドと、『ロリ』を題材にした曲で知られる人物を組ませるのは不適切」「ブランドの顧客層と合わない」などの批判が集まり、しぐれうい本人や関係者への暴力行為を示唆する脅迫、会場・来場客への危害をほのめかす書き込みも行われました。
メゾピアノは1988年から続く、実在の女児・ジュニア向け子ども服の老舗ブランドで、しぐれういは代表曲『粛聖!! ロリ神レクイエム☆』で広く知られるイラストレーター兼VTuberで、同曲は9歳設定のキャラクターが登場するロリータ・コンプレックスを題材にしたブラックユーモア・ネタ曲です。
コラボ商品は、通常のメゾピアノ店舗で子供服として展開されるわけではなく、ポップアップショップで大人向けに販売されるもので、ピンク色やフリルといった既存のメゾピアノのブランド意匠とは異なるシンプルなデザインとなっており、売り場のゾーニングや既存客向け商品との差別化はできている状態でしたが、コラボを批判する側からは、
「「粛清!!ロリ神レクイエム☆」の人は女児服とコラボしないで欲しい」
「嫌だしめちゃくちゃ悲しい」
「二度と買わない」
「子供服売り場にオタクが乗り込んでくる」
「子供に対する性犯罪を誘発する、或いは惹起させる」
というような、悲観や不買の表明、体感治安に基づく恐怖や嫌悪感の吐露が数多く寄せられました。
コラボ発表2日後の9月17日、企画を運営するcolyは公式Xで「諸般の事情により、中止させて頂く事となりました」と開催中止を発表。同日、しぐれういは「様々なご意見をいただきましたこと、また私を含む関係者への暴力行為を示唆する脅迫もあり、安全を考慮し本コラボレーションは中止となりました」と経緯を説明しました。メゾピアノ側にも店舗運営をはじめとする関係者の安全に関わる脅迫があり、開催中止に至ったようです。
こうした状況に対して、メゾピアノが好きで、「しぐれういのファンでもあるのでコラボ中止は悲しい」と嘆く声や、ポップアップショップの開催は10月3日から予定されていたため、製造済のグッズも多いと考えられ、制作費や破棄費用、会場のキャンセル費など、経済的打撃は甚大でありそうだと心配する声も寄せられました。
また、脅迫に屈する形で企画が消えることは誹謗中傷をする人間に成功体験与えることになるため、キャンセル・カルチャーを懸念する観点から企業の中止対応そのものを問題視する声や、性的な作品や不道徳な作品を発表したことがあるクリエイターが子供向けコンテンツに関わること自体を抑止するような意見がスタンダードになれば表現の萎縮を招くという表現の自由の観点から問題視する声もありました。
フォッグ行動モデルから見る「炎上」の問題
前回のニュースレターでは、キャンセル・カルチャーには他者を蹴落とす行為が報酬化され習慣化するメカニズムがあることを、フォッグ行動モデルや行動経済学で説明しました。要点をかいつまんで説明すると以下のようになります。
フォッグ行動モデルによれば、行動の発生には「モチベーション」「能力」「きっかけ」の3要素が必要となる(B = MAP:行動 = モチベーション × 能力 × トリガー)。SNS上の抗議行動は特別なスキルやリソースを要しないため「能力」のハードルが極めて低く、実行に移しやすい構造を有している。
行動心理学において、ある行動は「報酬」が得られることで頻度が高まり習慣化されやすくなる。キャンセル・カルチャーにおける「謝罪や撤回」「対象の行動変容」は参加者にとって大きな報酬となり、少ない労力で強い効力感を与えるため、行動の自動化・習慣化を強力に促進する。
その結果、本来の目的であった「平等な社会のための抗議」から、「謝罪や撤回という報酬(効力感)を得るために異議申し立ての対象を捜す」という目的と手段の逆転現象が発生してしまう。
今回の炎上のきっかけは、メゾピアノの服を買う親層やかつてメゾピアノを好きだった女性層が、「自分のブランドだと思っていたものが別文脈に接続された」と拒否したことにありました。コラボ批判者の抗議行動をフォッグ行動モデルに当てはめる前に、抗議をした親層やかつてメゾピアノを好きだった女性層のモチベーション(M)を読み解く必要があります。
ブランドイメージとアイデンティティの癒着の問題
例えば、ハイブランドのイメージ管理は「企業側が提示する理想像」と「顧客が想起する印象」をコントロールすることに努めます。
「このバッグを持つことで、自分はどんな人間になるか」を消費者に想起させ、所有することがアイデンティティの一部となる記号性を提示する
需要が高まっても供給量を増やさず、あえて入手困難な状態を作り「誰でも手に入れられる」状態を作らないようにすることでプレミアム感を維持する
買えない(買わない)層に対しても「あのブランドは憧れの象徴である」と認知させ、購買層の「所有する社会的ステータス」を醸成する
これは、「ブランド=自分自身」という強固な記号的結びつきをつくり、ブランド品が単なる見栄だけでなく、自己実現やエンパワーメントとして機能すると消費者に思い込ませるマーケティング・ブランディングの手法です。
女性のブランド信仰
人間は自らの所有物を「自分自身の一部(拡張された自己)」として捉える傾向があります。特にシンボル性の高いブランド品を所有することで、「洗練されている」「成功している」というブランドの価値観を自分自身のアイデンティティに組み込みます。

