「推し活」とジェンダーの謎
株式会社Oshicocoと株式会社CDGの調査によると、日本の推し活市場は、2025年時点で3.5兆円とされており、国内のリユース市場(約3.3兆円)や家具・インテリアなどのホームファッション市場(約3.1兆円)をやや上回る規模となっています。推し活人口は推定1,384万人、推し活消費金額は年間平均25.5万円とされ、さらに増加傾向にあります。
筆者は個別の作品やコンテンツを楽しむこと自体は好きですが、「推し活」をすることに関しては興味がありません。「共感能力」が低いため、他者と「共感」の感情を共有することを前提としたコミュニティが、基本的に苦手だからです。
ですが、「推し活」とジェンダーの関係に関しては、興味深く見ています。
「推し活」の性別年代別傾向
2026年の朝日広告社の調査結果によれば、20代から80代の男女全体での推し活率は21.8%。男女別では男性の推し活割合が15.7%であることに対し女性が27.8%と12.1pt高い結果となっています。2024年のクロス・マーケティングの同様の調査でも、20%が推し活をしており、性年代別では「女性20代」(45%)、「男性20代」と「女性30代」(各29%)の割合が高いことが分かっています。
20代より若年の傾向としては、「第9回青少年の性行動全国調査」において、高校生男子が17.9%、女子が53.9%。大学生男子が16.1%、女子が47.5%と、女子のほうが推し活割合が高いことがわかっています。

出典:日本性教育協会編『「若者の性」白書 第9回青少年の性行動全国調査報告』小学館
また、「推す対象」に関しても男女で傾向が異なり、女性では20代~60代まで「男性アイドル(グループ)」が1位となっています。推し活をしている人はそうでない人に対し幸福度や自己肯定感が高いという調査結果もあります。
不確実性・拒絶されることへの回避としての推し活
「推し活」は、Z世代をはじめとする若年層の女性を中心に、デジタル社会におけるリスク回避行動や合理的選択の帰結と深く連動していると考えられます。
SNSの普及により、他者との比較や自己客観化が常態化したため、振られること、振られる過程で自分の価値を損なうこと、人間関係のトラブルが周囲に可視化されることの「傷つきリスク」が極めて高く見積もられます。
その一方で、相手の機嫌を伺う、連絡の頻度を調整する、行きたくない場所に行くといった「他者に合わせる時間」は、タイムパフォーマンスの観点から敬遠されやすくなりました。また、デート代や美容・服飾費などに投資しても、必ずしも望む関係性や幸福が得られるとは限りません。この不確実性もまた、コストパフォーマンスの観点から敬遠される要因になります。
恋愛という「ハイリスク・ローリターン」の投資から撤退した若年層の感情と可処分リソースは、そのまま「ローリスク・ハイリターン」として高度に最適化された推し活市場へと流れていきます。推し活によって得られる胸のときめきや幸福感には、ドーパミンやオキシトシンといった恋愛や愛着と共通する報酬系・親密性のメカニズムが関与しているため、「傷つくリスクのあるリアルな恋愛を行わずに、推し活という安全な購買体験経由で恋愛感情の美味しいところだけを摂取する」という消費スタイルを確立しました。
母性・ケア欲求の受け皿としての推し活ビジネス
女性における「推し活」の実施率が男性よりも顕著に高い背景には、社会的・ジェンダー的構造、心理的な承認メカニズムの影響があると考えられます。



