「子供を守る」という美徳の罠:エロ広告規制法案の問題点

あいまいな定義で恣意的に運用されるシステムの危うさ
柴田英里 2026.07.19
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2026年7月15日、国民民主党はインターネット上の「エロ広告」から青少年を保護することを目的とした議員立法「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律の一部を改正する法律案(通称:エロ広告規制法案)」を参議院に提出しました。

青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律の一部を改正する法律案 概要

青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律の一部を改正する法律案 概要

国民民主党のニュースリリースによれば、本法案は「大規模なデジタルプラットフォーム事業者に対して、デジタル広告に含まれる青少年有害情報への対応に関する一定の措置を講じさせるもの」とされています。法案提出者の一人である小林さやか氏は、「表現そのものではなく、あくまで子どもの目に触れないような表示の工夫を求めるもの」と説明していますが、法案を読むと、「エロ広告」の定義が不明かつ、「デジタル広告に含まれる青少年有害情報」の指す「有害さ」という指標もあいまいで、いかようにも解釈できるため、容易に実質的な表現規制や過度な自主規制を誘発する欠陥がみえてきます

根底にある2つの「定義不在」

この法案の最大の欠陥は、規制対象となる概念の定義が悉く曖昧であり、いくらでも拡大解釈が可能な状態になっている点です。

「エロ広告」とは何を示しているのか

概要や要綱、条文のどこを読んでも、「エロ広告」という言葉に対する直接的な法案上の定義が明記されていません

「インターネット上のいわゆる『エロ広告』」と言及されているものが何なのか、性器の露出なのか、性犯罪の具体的な描写なのか、あるいはパンチラやキスシーンといったソフトなエロ・ロマンス描写まで含むのかが不明瞭なまま、「デジタル広告に含まれる青少年有害情報」という言葉へすり替えられています。

「青少年有害情報」のあいまいさ

それでは「青少年有害情報」とは何なのか。ここにも具体的な定義や指標がありません

そもそも、「エロ」と「有害性」は全く異なる指標であるため、ここを「エロ=有害」であるかのように混同する論理は自体が乱暴です。

親として、「有害でなくてもできれば子供には見せたくない」という類の情報は、エロに限らずあることは理解します。ですが、子供に何を見せる/見せないという判断は、国や事業者に責任と管理を求める前に、保護者の責任の元各々の家庭の判断で行われるものだという視点が抜け落ちています。

近年、フェミニズムやジェンダースタディーズの観点から「(主に)女性の描写」や「ステレオタプ表現」を批判し、取り下げを要求する声が、表現の自由の観点と衝突し、インターネット上で「炎上」状態になる事案が数多く発生しています。

参考:フェミニズムによる「表現物」批判・炎上の傾向の変化

参考:フェミニズムによる「表現物」批判・炎上の傾向の変化

「何をエロ(あるいは有害)とするか」というフェミニズムやジェンダーのトピックは、野球や政治、宗教と同じ、個人の信念やイデオロギーの問題であり、「あるべき姿」に、唯一の正解はないため、「炎上」しやすい構造を持っています。

この法案が想定する「民間団体」がどのようなものかはわかりませんが、近年のフェミニズムやジェンダースタディーズの流れを見れば、

“青少年が安全に安心して、インターネットを利用できる環境の整備について、インターネットにおける青少年有害情報の流通の状況、青少年によるインターネットの利用の実態などを踏まえ、調査研究及び検証を行い、並びにそれらの成果の活用の促進に関する活動を行う”

ことで、特定の価値観を主流のものとしたい団体が、雨後の竹の子のように発生することは容易に想像できます。

「表現物の影響力」の過大視と、新たな「(実質的)検閲」

この法案では、青少年にとって何が「健全な成長を著しく阻害する」のかの法的な境界線が不透明です。事業者側はどこまで規制すれば法律を遵守できているのか判断できません。この解釈の恣意性は、運用の現場に深刻な混乱をもたらします。

「エロ広告を目にすると青少年の健全な成長が阻害される」という言説は、かつて第2波フェミニズムの広告批判キャンペーンを主導した「行動する女たちの会」の吉武輝子らが依拠した、「大衆はメディアに操作されるだけの受動的で脆弱な存在である」とするメディア論の「弾丸モデル」「強力効果モデル」に近い視点です。

実証的・統計的な因果関係の検証を飛び越え、「有害である」というイデオロギー的断定だけで規制へ進む姿勢は非科学的と言わざるを得ません。

さらに深刻なのは、法案第1の6「青少年有害情報に準ずる情報についての大規模デジタルプラットフォーム提供者の努力義務」です。「有害に準ずる情報」という曖昧な言葉が「有害」の拡大解釈につながり、声の大きい活動家や一部の集団が「不快だ」と騒ぎ立てた表現が、なし崩し的に排除される可能性があります。

法案ではこれらの「実施状況を第三者として評価する民間団体」や「調査研究を行う民間団体」を追加し、国や地方公共団体が支援するとしていますが、その選定基準や中立性を担保する仕組みが法案内に明記されていないため、「第三者として評価を行う民間団体」の追加自体が、「利権と検閲のシステム」として機能するリスクがあるのです。

青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律の一部を改正する法律案 概要

青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律の一部を改正する法律案 概要

「消費者保護」における不利益と道徳の混同

前提として、広告は表現一般の中でもクレームに対して脆弱で、良くも悪くも規制がされやすいです。

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続きは、1769文字あります。
  • 「子供を守る」という道徳による「禁止」の危うさ

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