先鋭化した「正しさ」の応酬に疲れたあなたへ
はじめましてのご挨拶
はじめまして。現代美術家で文筆家の柴田英里と申します。
まずは簡単に、自己紹介をしたいと思います。あまり自分のことを話すのは得意ではないというか、慣れていないのですが、このニュースレターを書いている人間がどんな人間なのか、簡単にご説明できればと思います。
私が自分のことを話すことを敬遠しがちな理由は、美大出身であることに関係しています。美術の領域は、外から見れば「自由になんでもできる所」と思われがちですが、コミュニティの規模自体が小さく、予備校・大学時代から卒業後も、周りはみんなライバルという状況でした。人間関係もタコツボの中のように狭くなりがちなため、成功に関しても失敗に関しても、基本的に話さないほうが良いと思っていたためです。
美術制作のスタイルは彫刻が中心で、学生時代も彫刻専攻でした。彫刻を造ることによって鍛えられた能力は、洞察力と人間観察力です。また、思考と行動のバランス感覚も磨かれましたね。作品制作は思考と実践、トライ&エラーの繰り返しなので、頭でっかちでもいけないし、体だけ動かせば良いというわけでもない。集中力だけでなく、適切な判断能力と客観的にPDCAをまわす力が必要なのです。
大学の学部は武蔵野美術大学の彫刻科、大学院の修士過程は東京藝術大学の彫刻科でした。武蔵野美術大学の彫刻科は女子学生7:男子学生3の割合、東京藝術大学の大学院は女子学生2:男子学生8という割合でした。
当時驚いたのは、男女の構成比率が違うだけで、コミュニティの特性が劇的に変わることでした。彫刻科は、美大の中でも複数人での協力作業が必要になる機会が多いのですが、女子7:男子3の比率の場合は、皆がどこか中性的になり「協力すべき時は協力するが、基本自分の事は自分で」という個人主義思考が優勢になり、男子8:女子2の比率の場合は、「男は男らしく、女は女らしく(男子がメイン、女子はサポート)」という価値観が暗黙に共有されているように見える人も目立つようになりました。つまり、人間の価値観や振る舞いには、置かれた環境が大きく影響していると考えられる状況を体験したのです。
そして、ジェンダースタディーズやフェミニズム、クィアスタディーズなどに興味を持ちました。
しかし、私自身が学ぶ過程では、フェミニストやマイノリティの活動の党派性や被害者史観、学問であるにも関わらず政治性が優位になり、客観的な事実よりもオピニオンを重視するという傾向が強く見える場面に多く触れ、違和感を持つようになりました。
哲学者の千葉雅也さんとAV監督の二村ヒトシさんとは、先鋭化し攻撃性を増すポリティカル・コレクトネスに警鐘を鳴らす『欲望会議 性とポリコレの哲学』という本を出版しましたし、社会学者の宮台真司さんとは現在のフェミニズムを批判的に考察する対談本の準備をしています。
とりわけ、フェミニストによる性的「表現物」への批判や「炎上」に関して、著名なフェミニストたちが、性表現をする女性や性表現の女性ファンの存在、イラストレーターの約7割が女性であることなどを十分に考慮せず、表現物による影響を大きく見積もり「有害性」を見出すことには、特定の職業への蔑視を感じました。そこで、表現・女性の主体性・ジェンダー規範の衝突、表現の自由と規制のバランスを問うオンラインシンポジウム『女性と性表現』を2021年と2024年に企画・開催したところ、合計1,200名以上の参加者が集まりました。
また、ジェンダー関連の問題で必然的に語られていないマジョリティのことが気になるようになり、統計分析をはじめとした、複数の社会調査に関わるようにもなりました。
ここでいうマジョリティとは、現行の社会規範や既存の制度(結婚、家族、就職市場など)の枠組みを「ベストではないだろうが、どん底に悪い状態ではない」と考えて、無理のない範囲で格差をなくしていければ良いと考えている人や、差別は嫌いだし平等も支持するけれど、自分の生活様式や内面(趣味、恋愛観、言葉遣い)まで検閲されたり、最悪「加害」扱いされたりするのは受け入れられないと思っている人のことを指します。
つまりは、実社会を生きる多くの「普通」人たちのことです。
フェミニズムを批判したら、「アンチフェミニスト」扱いされるように
フェミニストの視点から、現在のフェミニズムの党派性や被害者史観、客観的な事実よりもオピニオンを重視する姿勢を批判するようになったら、「アンチフェミニスト」や「名誉男性(女性が男性中心的価値観に加担していると批判される表現)」と言われるようになり、フェミニズム関連の仕事はほとんど来なくなりました。
幸いにも楽天的な性格なので、アンチフェミニストや名誉男性と言われても、特に何も感じませんでした。私が何よりも嫌なのは、周囲から評価されないことではなく、自分の目で見て、調べて、事実だと思うことを偽りなく発言することができなくなることです。
フェミニズム関連の仕事がほとんど無くなったことは残念でしたが、生活ができないという状態でもないし、コミュニティ内の狭い人間関係や経済的相互依存に縛られ、いわゆる「お飼い殺し」の状態になることに比べたら、ずっとラッキーだとさえ思いました。
ニュースレター「サイレント・マジョリティのためのジェンダー論」を書こうと思った理由
このニュースレターを始めようと思ったきっかけは、今、社会はどんどん男女平等に近づいているけれど、アカデミアや社会運動のフェミニストたちが提唱する、あるいはメディアが報道する「ジェンダー平等」に違和感を持っている人は、想像以上に多いのではないかと思ったからです。
むしろ、「こうあるべき」というポリティカルにコレクトな理想論を押し付けられて、現実の悩み(キャリア、育児、パートナーシップ)を開示できなくなったり、素朴な疑問や違和感を口にしたいと思っても、批判されたり炎上するのが怖くて沈黙している人がいるのではないでしょうか。それならば、そういった人たちに向けて情報を届けたいと思いました。
誰かを沈黙させる事は、マジョリティにとってもマイノリティにとっても得策ではないと思うのです。より重要なのは、相互の自由と権利を尊重し、バランスを取ることです。
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※当初のプラン表記に一部誤りがあったため訂正いたしました(2026年5月28日更新)。
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